即戦力がつく英文ライティング 著者:日向清人 出版:ディーエイチシー 発行日:2013/2/8 |
中学レベルの英語を終えた人が、まとまった英文を書くためのライティングガイド。
ワンセンテンスの英作文ではなく、2文以上の英文を書くコツを紹介する。センテンス同士を代名詞や「つなぎ言葉」でつなげ、辻褄を合わせる。
その後、パラグラフや長いテキストの解説が続く。
文法ができても英作文はできない
ワンセンテンスの英作文(和文英訳)であれば、文法・語法・語彙力がモノを言う。
しかし、2センテンス以上の英文ライティングとなると、まったく別のアプローチが必要となる。
各センテンスが有機的につながってパラグラフとなり、1つの思考表現となっている必要がある。
本書はそういった英文の「構成」をテーマにした貴重な教材。
ただし、第1章「センテンスとして通用する条件を満たす」と第2章「英語らしいセンテンスを書く」の部分で、本書の4割のページを費やしている。
やはりワンセンテンスを正しく書くことがライティングの出発点のようだが。
第1章で誤解される本
本書を読んでまず気づくのは、びっくりするほど基本的な内容が含まれること。
第1部第1章では以下のような内容がある。
- Becauseなどの従属接続詞で始まる節は「センテンス」にあらず。
- 可算名詞で一般的な話をするときは、冠詞なしの複数形。
- 主語が One of [何々] のパターンでは、動詞は単数で受ける。
中学の基礎文法ともいえる内容があって面食らった人がいるはずだ。
これらの内容は、「センテンスとして通用する条件を満たす」ことを解説したもの。著者としては、難易度に関係なく、参考書のように網羅的に書きたかったのだと思われる。
こういった1章の内容をみて、「期待していたのと違う」と本を閉じてしまった人が多いのではないか。
この手の本は、最初から最後まで通しで読むのではなく、自分に必要な部分を読むことをお勧めしたい。
2章以降から本領発揮
第1部2章の「英語らしいセンテンスを書く」あたりから本書の本領が発揮される。
「受動態よりも能動態を使う」「漠然とした言い方を避け、具体的に言う」といったお馴染みの内容もある。
本書はそれだけでなく、かなり細かいコツを網羅していた。
「既知・未知の別があれば、まずは既知の事項から」「強調する必要のない二義的要素は真ん中に移す」「2つの事項のいずれかを従属節にしてメリハリをつける」など。
類書では見かけなかったような項目がけっこうあるので、手元に置いておきたい本だと思った。
「カンマを正しく使う」といった形式的なことについても、かなりページを費やして細かく解説している。
「センテンスどうしの論理関係」は見事な整理
第1部3章、4章、5章は、本書のキモと言える部分で、センテンスどうしの関係を網羅している。
特に5章5節「ロジックの展開がわかる定型的パターンを使う」では、目的に応じた16パターンにまとめている。
たとえば、「賛同する立場から自説を打ち出す」「反対する立場から自説を打ち出す」「自説を裏づけ、ふくらませる」「一方で賛成し、他方で反対する」など。
1つ1つの項目は、解説が短い。あくまでパターンを網羅的に提示することが狙いとなる。
パラグラフ・ライティングについても簡潔な解説
第2部ではパラグラフ・ライティング、第3部では長いテキスト(パラグラフの展開)について解説されている。
パラグラフ・ライティングについては、以前「パラグラフ・ライティング入門」をレビューしたので、そちらも参照してほしい。
本書でも短いページ数でパラグラフ・ライティングとその展開をひと通り解説をしている。
伝統的論述パターンの7つを紹介している。
- 定義を示し、詳細を述べるパターン
- 空間的な位置関係を説明するパターン
- 人物を描写するときのパターン
- 時間的な流れに沿って説明するパターン
- 手順・プロセスを説明するパターン
- 比較し、類似点と相違点を挙げるパターン
- トピック(既知の事項)を示してから、コメント(新情報)を付加していくパターン
これらの目的別パターンを利用することで、読みやすいパラグラフを書けるようになる。
解説は半ページから2ページ程度だが、論述パターンを理解するだけなら十分だ。それぞれのパターンに特有の英語表現もある。
パターン羅列教材をどのように使うか
ここまでの説明で明らかなのように、本書はライティングの「構成」に関わる論点を網羅している。参考書のようなパターン羅列本といえる。
この手の教材は、ひと通り読んだからといって、すぐに自分で書けるわけではない。
しかし、パターンに目を通しておくことで、英文を読んだときにロジックに意識が向くようになるのが大きい。インプット学習をしているときにもロジックのパターンを認識できるようになる。
ライティングのときにも、漠然と書くのではなく、ロジックを強く意識するようになる。
本書のタイトルは「即戦力がつく」だが、どちらかといえば長期的な視野でライティングの実力をつけるための教材である。手元に置いて、ときどき読み返したい。