村上春樹「象の消滅」英訳完全読解 著者:NHK出版 (編集, その他), 村上 春樹 出版:NHK出版 発行日:2015/1/15 |
村上春樹の短編「象の消滅」全文と英訳を収載している。
翻訳のポイントを詳細に解説していて、日英表現の違いを楽しめる。
NHKラジオ「英語で読む村上春樹」(2013年度前期)の書籍化。
何度も読みたくなる解説
村上春樹の小説は世界中で読まれている。英語圏では英訳版が読まれているわけだが、「どのように翻訳されているか?」というのは興味深いテーマだ。
本書はジェイ・ルービン氏の英訳版を使って、翻訳のポイントが解説されている。
小説全体を44節に区切って、見開き2ページで英訳と日本語原作を載せている。
右側の日本語原作は村上春樹の「像の消滅」をそのまま載せている。
左側がジェイ・ルービン氏の英訳だ。
そして次のページには翻訳のポイントが解説されている。
いくつかのセンテンスを取り上げて、翻訳のポイントを詳細に解説。
- その英語表現はもともとどういう意味か?
- なぜその英語表現が使われたのか?
- 表現の違いには、どういった文化的背景があるのか?
- どういった部分が省略されているのか?
- どういった翻訳の工夫がされているのか?
侘美真理氏による上質な解説となっている。
とにかく面白くて興味が尽きない。通読した後になって、ときどきペラペラめくって拾い読みをしたくなる。
村上春樹のファンで、しかも英語学習者の方にとっては、永久保存版ともいえる内容だ。
(紙質がペーパーバック風なのが残念。安っぽい紙に印刷されているので耐久性が気になる)
印象的な表現の数々
本書は村上春樹の小説がテーマ。
当然ながら、使われている英語表現は、ありがちな英語教材の内容とは異なる。
たとえば、以下の英訳の一部分
something they never displayed when they were out before the public
「(それは)2人が一般の人々の前に出ているときには決して見せないようなもの(だった)」
こんな表現は、いわゆる英語教材の中には出てこない。
けっして難しい表現ではないのだが、なんとも奥深い表現だ。
このような印象的な英語表現がページをめくるたびにある。
ちなみに、村上春樹の日本語原作で、該当部分は
人前にその公的な姿を見せているときよりは
この部分は文章中の表現なのだが、英訳ではその部分を抜き出して、文章の最後に持ってきている。
驚くべきは、英訳したジェイ・ルービン氏の文学的センスかも知れない。
本書を読んでいるだけで、英語表現が面白くて夢中になってしまう。そうやって読んだ英文は不思議なほど忘れない。
好きな本を読むことは、英語学習の王道だと改めて思った。