思考力をみがく英文精読講義

英文の奥深さを知る

著者は予備校の人気講師だが、一般向けの英語教材でもよく知られている。リーディング分野では多数のベストセラーを出していて、教材のファンも多い。

本書は、読めているようでも「実際はわかっていない」英文がテーマ。英文構造や単語の意味がわかっていても、内容は意外なほど理解できないことを示す講義になっている。

1ページに収まる程度の短い英文にたいして、「下線部を和訳しなさい」「因果関係を説明しなさい」など1,2つの問いを課す。この問いがポイントで、学習者が読めていないことをあぶり出す仕掛けになっている。

英文をざっと読んで、問いに答えた後で、解説を読む。すると、読めたと思った文章が読めていないことに衝撃を受ける。

たとえば、逆接のHowever が使われている。しかし、内容は逆接になっていない。これは、「仮に~だったとしても」といった仮定が省略されている、といった具合。

あるいは、of 以下の句を形容詞句と取るのか副詞句と取るのか。ここを間違えることで、意味がまったく通らなくなる。

or といった基本単語の用法を間違って読むだけで、その文全体の理解がまったくできなくなる。

何が衝撃かといえば、自分がまったく疑問を持たずに読んだ気になってしまうこと。筋が通っていない部分を不思議なほど読み飛ばしていることに気づかされる。

解説を読み進めるごとに、自分の未熟さを思い知り、目が開かされる。こういった知的な興奮は、文学の輪読会に近いものだろうか。

「勝手読み」はすぐに通用しなくなる

本書のような分析的な読解は、「重箱の隅をつつく受験英語」として批判する人もいる。しかし、著者が言うように「分析的に読めないと、あるレベル以上の英文は読めない」のは確かだ。

最低限の意思疎通を目的とした英会話とは異なり、相手が書いた文章を確実に理解するためには、より高い水準の英語力が求められる。

その英語力は、語彙や文法だけではない。本書がテーマにしているような論理展開を抑える「読解力」というべきものだろうか。

「そんな難しい文章を英語で読まない」という人がいるかも知れないが、本書に掲載された英文は、けっして専門的ではない。日本語の「新書」にありそうな内容で、ごく一般向けの文章にすぎない。

そのレベルであっても、英文を理解するためには精密な読解が要求される。外国語を理解するのは簡単ではないのだ。

中上級の英語レベルの方で、リーディングを鍛えたい人には本書を強く勧めたい。「勝手読み」の危険性を肌で感じるとともに、英語への情熱が新たになるはずだ。

一語たりとも軽視せず

ところで、本書の「はじめに」が実に良かった。著者の若かりし頃について書かれているのだが、英文学者の古谷専三博士から薫陶を受けた話がある。

学者の本に感銘を受けた若者が、その学者の家に押しかける。すでに90歳を超えていた老学者は喜んで迎え、その若者に英文読解の個人教授を行う。その教授風景も実に奥ゆかしく、若者の読解が不十分なときには、「君はある一語をひどく軽視している」といった静かな指摘をするにとどまる。

まるで映画のワンシーンのようだった。著者はこういった貴重な経験を通して、英文を読むために「どういうところに疑問を持たなくてはならないのか」を知ったとある。

著者がもっている英文読解への情熱と真摯さがどこから来たのか。その理由は、本書の「はじめに」で垣間見ることができる。

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