英語のソーシャルスキル 著者:鶴田 庸子, ポール ロシター, ティム クルトン 出版:大修館書店 発行日:1987/12/1 |
それぞれの状況においてどのような英語が「適切か」について解説する。
「何を適切と考えるか」についての体系は文化圏により異なるため、本書は比較文化論的な内容となっている。日本人とイギリス人の共著。
外国人だからといってマナー違反が許さるわけではない
本書の大筋は、様々な場面での典型的な会話を取り上げ、どのような表現がどのような関係においてどのように受け取られるかを解説。
とりあげる状況は、初対面での紹介、パーティーの会話、何かを尋ねる、何かをやってもらう、アドバイスする、誘う、など。
不適切な言葉使いの典型は、くだけた英語表現をあらたまった場面で使ってしまうことだろう。
このような失敗は、英語が下手であるほどノンネイティブだからということで許される。しかし、英語が上達するにつれて、それらの失敗がノンネイティブの誤りとは気づかれずに人格のあらわれと解釈されるリスクが増えていく。
これは逆の立場になってみるとよくわかる。たどたどしい日本語を使っている外国人の場合は、不作法な言葉使いをしても微笑ましい間違いとして済ませられる。
しかし、日本語ペラペラの外国人が無礼なことを言ったとしたら、それは間違いではなく嫌みで言っていると受け取られてしまうだろう。
語学の上達とともにそのようなリスクが発生することを忘れないようにしよう。言葉を学ぶ以上は、その国の文化面の理解を深めることが必須になるのである。
丁寧表現だけでは通用しない
英語圏でのマナーについては、とりあえず丁寧な表現を一通り覚えておけばいいと考えている人も多い。
たしかに最初はそこから始めることになるが、徐々にそれでは済まなくなってくる。
たとえば、英語圏において、誰かと一緒にいるときに知り合いに会ったとしよう。同伴者を紹介すべきだろうか。
日本では紹介しないで済ますことが自然な状況でも、英語圏では「意図的にのけ者にしている」と受け止められるため、面倒なことになりかねない。つまり、表現の違いだけではなく、表現と一体になった文化の違いを理解しておくことが肝心なのだ。
本書はそのような文化的な側面にまで深く切り込んで解説しているため、単なる丁寧表現集とは明確に一線を画している。
日本の感覚でコミュニケーションすると大きな失敗をしがちな場面について、きわめて実践的なアドバイスがつまっている。中級以上の人、特に海外滞在の予定がある方には本書を強く薦めたい。
日本の家に土足であがることが許されないように、他国には他国の許されないことがある。適切なことと不適切なことの体系は、それぞれ習慣や文化にある。
それらを無視して外国語を学ぶというのは、非常に危険である。そのことをしみじみ理解できる良書だった。