著者:三木谷浩史
出版:講談社
発行日:2012/6/28
楽天の壮大な実験
「楽天が公用語を英語にした」というニュースをご覧になった方も多いはず。2012年7月1日から、社内で使われる言葉を英語にしたという。
2010年5月に方針を発表してから、丸2年をかけて、会議、朝礼、メール、資料など段階的に英語にして、ついに楽天社内は英語が標準になった。
本書は、なぜ英語を公用語にしなければならないかを説明し、2年余りにわたる楽天の奮闘を報告している。
危機意識の違い
「英語の公用語化」というテーマは、強い拒否反応を示す人が少なくない。
英語が苦手な人にとっては社会的な立場に響いてくるし、いわゆる植民地主義(英語支配)を連想させることもある。
しかし、企業にとってはもっとシンプルな問題で、海外市場に出て行くために必要なだけだ。
日本は高齢化と人口減少が急速に進んでいて、2050年には世界に占める経済規模が3%まで縮小するという。企業が海外に打って出るのは必然だし、英語はそのための準備に過ぎない。
(楽天の方針を笑っていた某(高齢)経営者は、本当に30年後40年後を考えて企業経営をしているのか。そちらの方が疑問だ)
英語を公用語にする本当の理由
海外市場を狙うのは当然としても、なぜ「英語の公用語化」なのか。これには異論も多い。
なぜ、通訳ではだめなのか。なぜ、海外部署を作ったのではダメなのか。なぜ、国内営業の社員まで英語を使わなくてはならないのか。
これらの疑問には三木谷社長が明確に答えている。
通訳を介したコミュニケーションでは事業を進める一体感が保てない。海外専門の部署を作ってしまうと全社的な意識とノウハウの共有ができない。社員の英語力を高めるには、全社的に英語環境を作るのが最善の道、など。
印象的なのは、三木谷社長の経営感度である。1つの企業の中で海外組と国内組が分かれることの危険性を敏感に直感している。かなり大規模な海外展開を前提をしているとしか思えない。
つまり、楽天を世界トップの企業にしようと本気で考えているようだ。この志を抜きにして、英語の公用語化は理解できない。
「やり抜く」とはこういうこと
しかし、社内の公用語を英語にすることがどれほど困難なことか、本書を読むとしみじみ伝わってくる。並みの経営者ならビビッてしまって決断はとても無理だ。
そもそも「英語ができること」と「仕事ができること」はイコールではない。英語が苦手だから活躍できないと感じる社員もいるだろう。会社の業績に貢献しても、英語力がないために出世できないと感じる社員も出てくるだろう。深刻な不満とストレスが渦巻く。
社内がこのような状況に陥ることは容易に想像がつく。だからこそ、社内を英語にするのは無理だと思われている。
そのような状況で、三木谷社長が取った行動は何か。「英語が仕事」という決断。なんと通常の仕事を免除してでも英語の勉強をしてもらったという。
「たかが英語じゃないか」という楽天的な発想があってこそだろう。英語なんて、やればできる程度のことなのだ。
楽天から目が離せない
ということで、国内企業として前例がない「英語の完全公用語化」を達成したわけだが、その評価はまだまだ先になるだろう。
楽天社員のTOEIC平均スコアは694点まで向上したというが、英語だけで仕事をするには心細いスコアにも思える。本当に日常業務に支障はないのだろうか??
もっとも、社内環境が英語になれば、これから徐々に社員の英語力が向上していくはず。あと5年も経てば、英語が苦手だった社員も当たり前のように使いこなしていることだろう。
本書を読んで一ついえるのは、今後の楽天から目が離せないということだ。