英語リーディングの秘密 著者:薬袋善郎 出版:研究社 発行日:1996/10 |
英文を一文ずつ品詞分解していく。
英語のルールに則って、正確に読む練習をする。
著者は元予備校講師で、英文精読の分野で著名な薬袋善郎氏。
リーディングといえば品詞分解
品詞分解とは、英文を主語、動詞、修飾語などに分解していくこと。5文型のSVOCを示して、形容詞句や副詞句は修飾している語句へ矢印で示す。すべての英文を文法的な裏づけをとって読んでいくことになる。
学生向けのリーディング教材では定番だが、一般向けの英語教材としては珍しい。
このトレーニングを通して、単語の意味をつなげて英文を読むのではなく、文法ルールにのっとって正しく英文を読めるようになる。
真面目な受験予備校では、執拗にこのトレーニングを繰り返すことになる。(逆に、手抜きの授業になると、品詞分解をやらずに英文を和訳するだけになる)
リーディングの基本トレーニングとして欠かすことのできないものだが、一般向けの英語教材ではあまり見かけない。学生がやるような真面目すぎる内容だからかもしれない。
著者は予備校講師で、一般向けのリーディング教材でも知られる薬袋氏。一連のシリーズの中では、「思考力をみがく英文精読講義」といった上級レベルではなく、基本レベルに位置づけられる。
5文型の理解があってこそ英文は正しく読める
品詞分解の重要性がわかる部分ついて、本書から一部を抜き出して紹介したい。
Jane did not stop her baby talk.
この英文の意味がとれるだろうか。一見すると簡単な英文だが、しっかりとした文法の裏づけがないと正しい理解ができない。
Jane did not stop her baby talk.
S 5 O C/1 (誤)
「ジェーンは赤ん坊がしゃべるのをとめなかった」(誤)
上記は間違った理解。stopは第5文型(SVOC)で使うが、そのとき補語になるのはing形だけ。原形は補語になれないので、第5文型ではない。正解は以下。
Jane did not stop her baby talk.
S 3 O (正)
「ジェーンは赤ん坊のような話し方をやめなかった」(正)
talkがing形になっていない以上、talkは動詞ではなく名詞で理解することになる。だとすると第3文型になる。baby talk は「赤ちゃん言葉」という慣用句で、stopの目的語として読むことになる。
このように、単語の意味ではなく品詞からアプローチすることで、英文を正しく読むことができる。
本書を必要とするレベルの人にとってスパルタ式
薬袋氏の著作だけあって良書なのだが、本書にはいくつか難点もある。買ってから「こんなはずではなかった」とならないように、注意点を書いておきたい。
まず、名詞句、副詞句など、文法用語が多用されている。かなり慣れている人でないと読み通すのが難しいかもしれない。
読んでみれば基本文法を使っているだけなのに、あまりに文法用語が多いため難しく感じてしまう。
また、修飾関係を示す矢印がスパゲッティのように込み入っている英文もある。これについても、かなり慣れていないと面食らうかもしれない。
実際の授業であれば、板書しながら徐々に品詞分解するから理解しやすい。
しかし、書籍教材の場合は、分解のプロセスをいちいち図示したらページ数がどれだけあっても足りない。英文は分解結果だけを示すことになり、品詞の記号と矢印が渋滞することになる。
もちろん、ある程度の文法力があれば本書でも問題はない。しかし、本書の内容が基礎的なので、想定される学習者は上記のことが気になるはずだ。
文法用語を控えめにしたり、図示を簡略化するなど、本書に少々の工夫があれば、かつてない名著になっていた。解説文が非常にわかりやすいだけに、上記の点が少し残念だった。
品詞分解が重要なトレーニングであることは間違いない。文法力はあるが読解力がない、というタイプの人に本書を勧めたい。