英語のハノン (初級・中級・上級) 著者:横山雅彦, 中村佐知子 出版:筑摩書房 発行日:2021/4/5 |
英文法のパターンプラクティス本。
ピアノ練習曲集「ハノン」のように、根気強く練習を繰り返す。
「文法を意識することなく英語の意味に100%集中」できるようになることを目指す。
音声をフルに使ったパターンプラクティスに特徴がある。
3冊それぞれ別の文法項目を学ぶ
本書シリーズには、初級・中級・上級がある。パッと見では単なるレベル分けのように見えるが、学習する文法項目が違う。
- 初級:5文型、疑問詞、受動態、現在完了、不定詞、分詞
- 中級:接続詞、過去完了、比較
- 上級:関係詞、構文、仮定法
3冊すべて学習することで、英文法を一通りマスターすることになる。
「初級・中級・上級」とはいっても、「初級」で終わりにするわけにはいかないので要注意。3冊でワンセットだと考えておこう。
本を手にとってみると、思ったよりも薄い。
1冊にすることもできそうだが、3冊に分かれていたほうが使い勝手はいい。
練習量が多いので、学習には時間がかかる。3冊に分けたのは良い判断だと思った。
レベル分けになっている理由
本書シリーズがあえて「初級・中級・上級」としたのは以下のような理由がある。
- 初級:語単位、句単位の5文型を学ぶ
- 中級:節単位の5文型を学ぶ
- 上級:もっとも英語の構造を難しくする関係詞を学ぶ
いわれてみれば、適切な難易度の区分けだった。
「初級・中級・上級」の区分けで納得。
音声中心のパターンプラクティス
本書の特徴は、音声を使ったパターンプラクティスにある。
中級編の「接続詞5 名詞節を導くthat」を例にして、紹介したい。
ドリルの2問目。
The CEO has resigned.
最初に、問題となる英文の音声が2回流れる。音声が流れることにポーズがあり、リピートする。(ドリルをやる前に2回のリピーティング)
(テキストには、各英文の和訳「そのCEOは辞職した」がある。音声に和訳はない)
次に、次の音声が流れる。
It’s surprising
このフレーズを使って、自分で英文を言い換えて発声する。
その後、正解の音声が流れる。
It’s surprising that the CEO has resigned.
この音声も2回流れるので、リピートする。
次にまた別の指示がある。
Omit
省略せよとの指示が出る。thatを省略して自分で発声してみる。(学んでいる文法項目によって、”negative”(否定語)という指示が出たら、否定形にするなど様々な言い換えをする)
すると次にまた正解の音声が流れる。
It’s surprising the CEO has resigned.
この音声も2回流れるので、2回リピートする。
このようにして、音声を聞きながら連続的にパターンプラクティスを繰り返す。自分で考えて発声することに加えて、すべての英文を2回リピートする。
絶品の音声パターンプラクティス
本書には2つの練習パターンがある。
- Consecutive Drill(連続ドリル):文に新たな語句を次々に代入する
- One-Step/Two-Step/Three-Step:指示に従った形に変換する
いずれにしても、上記でご紹介したように、音声の指示にしたがって自分で発声する。そして、すべての英文を2回リピートする。
このパターンプラクティスのやり方が「英語のハノン」シリーズ最大の売りであり、多くの人が評価しているポイントだ。
本書シリーズの副題には「スピーキングのためのやりなおし英文法スーパードリル」とある。長い副題だが、本書の役割を見事に表現している。
他のパターンプラクティス本では、テキストを見て、決まり切った言い換えをすることが多い。音声は最後に自分でリピーティング練習するだけで、学習に組み込まれていないことが多い。
本書では、すべての問題で音声を聴いて、自分で考えて発声し、そのうえで2回リピートするようになっている。
これほど音声を有効に使った文法教材は他にない。問題量がかなり多いのも素晴らしいし、音声だけで復習が可能だ。
本書でしっかり練習しておけば、文法を意識しないでスピーキングできるようになる。
文法解説は硬め
ということで、本書のパターンプラクティスは本当に素晴らしいのだが、文法解説については向き不向きがあるかもしれない。
昔の受験英語のように文法用語が多用されている。そして解説も硬い。
たとえば、上級編の複合関係詞の章には以下のような解説があった。
複合関係代名詞は名詞節か副詞節、複合関係副詞は副詞節、複合関係形容詞は名詞節か副詞節を作ります。
「受験時代はこんな文法解説を聞いていたような気がするなあ」と懐かしい気分。英文法の整合性を重視した硬い解説だ。
解説が間違っているわけではないが、学習者を置き去りにした古いタイプの文法解説となる。
英語の感覚ジャンルでご紹介している「ここがおかしい日本人の英文法」のような文法解説書に触れてしまうと、本書のような解説には違和感がある。
読みにくい部分は飛ばしても、パターンプラクティスをやれば体でわかるようになるから問題ないかもしれないが。
ともかく、英文法が苦手な人におすすめできる文法解説ではない。英文法が好きで、文法用語を多用した硬い解説でも違和感がない人に向いている。
もともと本書は練習ドリルなので、パターンプラクティスのページが多くを占める。本書の音声パターンプラクティスに魅力を感じた人は、練習のために購入する価値がある。