英語のセンスを磨く――英文快読への誘い 著者:行方 昭夫 出版:岩波書店 発行日:2017/9/16 |
英文の文脈や前後関係、執筆者の意図、登場人物の心理を探る。
一文一文を和訳するようなことはせず、重要なポイントを7つ程度抜き出して解説。
英文学者の精読指南
著者の行方昭夫氏は、サマセット・モームの翻訳で知られる英文学者。英文読解の教材も数多く執筆していて、英語学習者から人気がある。
本書「英語のセンスを磨く」も英文読解の教材となっている。英語を深く読むための精読ガイドといったところだろうか。
あらゆるジャンルの英文を精読
著者は英文の選択にかなりの神経を使ったようで、たしかに張り合いのある良質な英文が揃っている。ジャンルは、新聞報道から、エッセイ、評論、小説など幅広い。
収録されている英文は大人が読んでも興味が持てて、しかも、ある程度難しいレベル。
上記写真の右側枠線内が1つの英文量。個々の英文は200語程度で短い。
どの英文も文庫本の1ページに収まっている。
1ページの英文を読んだら、解説が8ページほどにわたって続く。最後に訳文がある。そしてまた、別の英文を読む。そういった流れになる。
コンテクストをつかむポイントが浮き上がる
精読とは何だろうか。英文のコンテクストをつかむこと、つまり、英文の文脈や前後関係、執筆者の意図、登場人物の心理を可能な限り探ることに他ならない。
辞書で個々の単語の意味を調べても、内容はさっぱりわからない。コンテクストを手掛かりにしないと英文を理解できないのだ。
本書では、輪読会のように精読のプロセスを解説していく。
一文一文を和訳するような無意味なことはしない(最後に訳文がある)。
解説では、重要なポイントを7つ程度抜き出して項目にしている。このメリハリが素晴らしい。
たとえば、「論旨の展開」「まず状況をつかむ」「誰の見解か」といった大筋の内容理解。「youは誰を指すのか」「at all」はどこにかかる?」といった指示語や係り受けによる内容理解。「communicateの本当の意味」「withの用法」「institutionをどう考えるか」といった語彙の深い理解。
こういったポイントを各英文で7つ程度抜き出して深く考察していく。その英文のコンテクストをつかむために鍵となる部分が浮き上がってくる構成だ。
解説の文章は親しみやすい語り口調で、輪読会に参加しているかのような臨場感がいい。突っ込んだ話をしているのにさほど難しい印象がないのは、上質な解説がなされているからだろう。
中級以上になったら、本書のような精読系のリーディング教材を試してほしい。語学に特有のマンネリ感が一気に払拭されることだろう。