実践 日本人の英語 (岩波新書) 著者:マーク・ピーターセン 出版:岩波書店 発行日:2013/4/20 |
名著「日本人の英語」から四半世紀もの月日が過ぎた。シリーズ最新作となる本書は、日本人による英作文の間違いをテーマにしている。
近年、マーク・ピーターセン氏は大学で英文添削の講義を受け持ったという。その経験を生かして、大学生の間違いを添削しながら、英語の感覚と論理を伝えていく。
またしても名著
本書の雰囲気を紹介するために、第3章の「冠詞と数」から引用したい。
「彼女はよく大学時代の恋人を思い出す」という文章がある。これを英作文してみよう。
実はこの表現を英語にするのは不可能である。 なぜなら、「大学時代の恋人」について、数の情報が欠落しているから。恋人の数について、以下の4つの可能性が考えられる。
1.「大学時代の彼女の恋人」が一人しかいない場合
2.「大学時代の彼女の恋人」が複数いて、そのすべてをよく思い出す場合
3.「大学時代の彼女の恋人」が複数いて、そのうちの何人かをよく思い出す場合
4.「大学時代の彼女の恋人」が複数いて、そのうちの1人をよく思い出す場合
この4パターンは、すべて違う英語になる。つまり、数の情報がないままでは、「大学時代の恋人」という日本語は英訳できない。
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日本人の感覚だと、「数なんてどうでもいいじゃないか」と言いたくなる。日本語で「彼女はよく大学時代の恋人を思い出す」と話すときには、恋人の数について考慮することはまず考えられない。しかし・・・
「英語では逆に、曖昧な表現にしたくても、そもそもできない」。
こういった部分こそ、日本語と英語の世界観の違いである。日本人が作る英語において、盲点となる部分だろう。英語で話すためには、日本語だったら考えないような数の概念を意識しなくてはならない。
ということで、本書は上記のような「目から鱗」の話題が、これでもかと盛り込まれている。 引用したい部分は山ほどあるが、きりがないので、興味のある人は本書を読んでほしい。
本書で扱っているテーマは、文法項目として見るなら基礎的な内容となる。しかし、盲点となる部分とか、本質的に理解が難しい部分というのは、文法の難易度とは関係がないことがよくわかる。
英語の何が難しいかといえば、日本語と英語で世界観がズレる部分だ。マーク・ピーターセン氏は、そこを解説できる数少ない著者である。
「日本人の英語」の最新作は、まったく期待を裏切らない内容で、1ページとして無駄な部分がない完全無欠の名著といえるだろう。